用語集
【あ】亜寒帯循環|亜熱帯循環|亜熱帯モード水|安定同位体比|一次生産|易分解性|エアロゾル(大気浮遊粒子状物質)|エアロゾル全球放射輸送モデル(SPRINTARS)|衛星海色データ|栄養塩|栄養カスケード|栄養段階|エコパス・ウィズ・エコシム
【か】カイアシ類|海面高度|海洋酸性化|化学種|化学量論|ガバナンス|北太平洋十年変動|共制限|群集純生産(NCP)|群集多様度|群集類似度|珪藻|欠如モデル|原核生物/真核生物|高栄養塩・低クロロフィル(HNLC)海域|高気圧渦|高度回遊性種|国連気候変動枠組条約|古細菌(アーキア)|コロイド|根拠に基づく政策
【さ】再生生産|サブメソスケール|次世代(超並列)シークエンサー|硝化|植物プランクトン|新生産|深層|生元素|生食連鎖|生物季節(Phenology)の変化|生物の多様性に関する条約|生物地理|生物地理分布(Biogeography)の変化|生物ポンプ|セジメントトラップ|絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約|全アルカリ度
【た】大陸棚限界委員会|炭酸系|窒素固定|中央モード水|中規模渦|中深層|低気圧渦|デトライタス(懸濁態非生物粒子)|転換効率|動物プランクトン|篤志船舶(VOS/SOOPs)による観測|独立栄養生物/従属栄養生物|トップダウン効果
【は】橋渡し研究|微生物食物連鎖|微生物炭素ポンプ|表層混合層|微量金属|プランクトンの機能的多様性(PFT)|フレーミング|フローサイトメトリー|ボトムアップ効果
【ま】マイクロネクトン|マスバランスモデル|マルポール条約|無機化|メソスケール|メタゲノム解析|モード水|モード水渦|モード2
【や】有機配位子|有色溶存有機物(CDOM)|溶存酸素|溶存有機物/粒状有機物|予防原則
【ら】ラグランジアン観測|リービッヒの最小律|リスクマネジメント|(生態系の)レジリアンス(復元力)|レッドフィールド比|連続プランクトンレコーダー(CPR)
【英数】Argoフロート|DGGE|OTU|PFT海洋生態系モデル|RuBisCO|16S rRNA|28S rRNA
亜寒帯循環
大洋の亜寒帯域に存在する低気圧性(北半球で反時計回り、南半球で時計回り)の還流。偏西風~極東風帯の低気圧風系(冬季にはアリューシャン低気圧に相当)で駆動される。海面では水位が低く、密度・栄養塩躍層は浅い。北太平洋には東部、西部2つの亜寒帯循環が存在し、西部亜寒帯循環の西端を流れるのが親潮である。
東京大学大気海洋研究所:伊藤幸彦
亜熱帯循環
大洋の亜熱帯域に存在する高気圧性(北半球で時計回り,南半球で反時計回り)の還流。貿易風(北半球で北東風、南半球で南西風)~偏西風帯の高気圧風系で駆動される。海面では水位が高く、密度・栄養塩躍層は深い。黒潮や黒潮続流、北赤道海流は北太平洋亜熱帯循環の一部であり、それぞれ西端、北西端、南端を構成する。
東京大学大気海洋研究所:伊藤幸彦
亜熱帯モード水
広義には、海洋亜熱帯循環内で形成されるモード水のことを言う。例えば、北アメリカ大陸西外洋にて形成されるものは「北太平洋東部亜熱帯モード水」といったようにその形成海域により大別されている。狭義には、北太平洋北緯30-35度,東経140-160度の黒潮続流南側の再循環域において形成されるものを差す(北太平洋亜熱帯モード水)。このモード水は、黒潮が南より運ぶ大量の暖かい海水が冬季に大陸より吹き出す冷い風によって冷やされることで形成されることから、大気と海洋の熱交換を強く反映したものとして研究されてきた。実際にこの海域では全海洋中でも最大級の海面から大気への熱フラックスがあるとされている。形成された北太平洋亜熱帯モード水は、再循環、亜熱帯循環に沿って輸送され、一部は沖縄東岸から日本南岸にかけての黒潮に再取り込みされることや、次の冬季に混合層に取り込まれる様子などがわかっている。
海洋研究開発機構:纐纈慎也
安定同位体比
同じ原子番号を保つが質量が異なる元素を同位体というが、放射線を発して崩壊する放射性同位元素とは異なり。自然界で安定した状態を保つことができるものを安定同位体という。捕食性動物の体内の炭素や窒素の同位体は主に餌生物に由来し、採食履歴を反映する指標として用いられている。たとえば、窒素安定同位体では質量数が14の14Nと質量数が15の15Nがあり、タンパク代謝経路における化学的性質は同じであっても軽い方の14Nは排出されやすく、15Nは排出されにくい性質があり、食物連鎖を通じて重い同位体が体内に蓄積され高次栄養段階の生物ほど15Nの比率が高くなる 。一方炭素同位体の濃縮率は比較的小さく、植物によって合成される有機物の由来を表す。こうした性質から、安定同位体比は生態系の食物網の捕食被食関係の解析に用いることができる。
水産総合研究センター東北区水産研究所:加藤慶樹
一次生産
易分解性/難分解性
非生物態有機物の生物学的なもしくは光(太陽光)による分解され易さ(分解性)を示す用語。海洋有機物は様々な分解性を示す有機物の混合物であり、数秒で分解される有機物がある一方、放射性炭素年代が1万年を超える有機物も存在し、易分解性・難分解性を明確に区分する定義は定まっていない。易分解性成分は微生物の栄養源として、難分解性成分は炭素プールの構成要素として重要である。
北海道大学:山下洋平
エアロゾル(大気浮遊粒子物質)
大気中に存在している粒径0.001~100マイクロメートルの微粒子。砂粒・海の波しぶきにより生成される海塩・火山生成物等の自然由来と、化石燃料使用や森林火災により生成される硫酸塩・すす・有機物・硝酸塩等人為起源のものがある。発生源から粒子として発生する1次粒子と、発生源からは気体として発生して大気中で化学反応等により粒子化する2次粒子がある。高濃度になると健康影響や視程悪化など大気汚染を招くほか、太陽光や赤外線の散乱や吸収、さらには雲の核になる機能を通した雲の性質の変化により気候変動要因となる。
九州大学応用力学研究所:竹村俊彦
エアロゾル全球放射輸送モデル(SPRINTARS)
大気浮遊粒子状物質(エアロゾル)の輸送過程(発生・移流・拡散・化学反応・湿性沈着(雨や雲による大気中からの除去)・乾性沈着(地面付近での乱流や重力落下による大気中からの除去))および気候影響(太陽光や赤外線の散乱や吸収・雲の核になる機能を通した雲の性質の変化)を計算するソフトウェア。ホームページから利用できる。
九州大学応用力学研究所:竹村俊彦
衛星海色データ
衛星観測で得られた、植物プランクトンの世界分布(青が少なく、黄〜赤が多い)
http://oceancolor.gsfc.nasa.gov/FEATURE/gallery.html
東海大学工学部:虎谷充浩
栄養塩
植物プランクトンや海藻などの植物体を構成し、水圏環境でそれらの増殖の制限因子となっている物質のうち、窒素 (N)、リン (P)、ケイ素 (Si) の無機化合物、すなわち、硝酸塩、亜硝酸塩、アンモニウム塩、リン酸塩、ケイ酸を総称して栄養塩という。土壌肥料の三大要素である窒素 (N)、リン (P)、カリウム (K)に相当。広義には鉄 (Fe)、銅 (Cu)、亜鉛 (Zn) 等の微量金属も栄養塩に含めることがある。尿素は有機化合物であるが、一次生産過程での挙動が無機栄養塩と似ているため栄養塩と同等に扱うことがある。
東京海洋大学:橋濱史典
栄養カスケード
生態系を構成する生物が、食う食われるの関係(捕食被食関係)を通じて段階的に効果を及ぼす経路を表す用語。高次捕食者から、その餌生物、さらにその餌となる植物へと影響が波及する様子から、trophic cascade(栄養の滝)と呼ばれている。湖沼の小魚による動物プランクトンの捕食が、間接的に植物プランクトンを大発生させる例などが報告されている。
栄養カスケードを通じたトップダウン効果の模式図。
水産総合研究センター国際水産資源研究所:奥田武弘
栄養段階
栄養段階とは食物連鎖における食地位を示す指標で、1次生産者(植物)は1、植食者は2、植食者を捕食する生物は3と定義される。複数の食物を食べる雑食性の捕食者については、餌生物の栄養段階と捕食割合に応じて2.5といった中途半端な値を取り得る。生態系モデルや安定同位体分析を利用することで、栄養段階を小数点以下の数値まで細かく定量化できるようになり、食物網や共生関係の詳細な解析が可能となった。
水産総合研究センター東北区水産研究所:加藤慶樹
エコパス・ウィズ・エコシム(EwE)
生物量を単位とする代表的なマスバランス型海洋生態系モデルの一種Ecopathと、それに付随する動的シミュレーションモデル群の総称。この生態系モデルを構築するためのフリーソフトウェアであるGUI型アプリケーションを指す場合もある。生態系を考慮した漁業管理のためのモデリングツールとして開発され、現在はカナダのブリティッシュコロンビア大学漁業センターがアプリケーションソフトの改良を行っている。開発から10数年経っており、高次捕食者と漁業を対象とした海洋生態系モデルとして広く普及している。EwEは,ホームページから、誰でもダウンロードして利用することができる(最新版はVersion 6.3、2013年6月26日現在、Windowsのみの対応)。 EwEには、3つのモジュールが格納されている:i) マスバランスがとれた状態の生態系の捕食被食関係を構築し、食物網の特性を定量化するEcopath、ii) Ecopathのバランスを崩すことによって生じる経時的変化をシミュレーションするEcosim、iii) 構築したEcopathモデルを空間的に分割してEcosimを適用することにより、時空間ダイナミクスをシミュレーションできるEcopaceである。
Ecopathの基本式は、
生産量=被食量 + 漁獲量 + 移出入量 + 生物蓄積量 + その他の死亡
であり、この捕食者の食性情報を用いて構成種の食性情報を用いて被食量を他種との関係に拡張し連立方程式を作成する。食性、現存量、摂餌量、生産量などに関する既知のパラメータを入力し、連立方程式を解くことによって未知のパラメータを推定し系のバランスをとる。したがってEwEでは、各構成種の食性情報が食物網の捕食被食関係を決定づける重要な要因である。
水産総合研究センター国際水産資源研究所:米崎史郎
カイアシ類
海洋の動物プランクトン中、最も優占する甲殻類動物プランクトン。浮遊性カイアシ類は体長は0.6-10 mmで約2500種が知られ、海洋の表層から海底まで広く分布する。植物プランクトンなど小さな粒子を食べ、魚など大きな生物の餌となることで、海の食物連鎖の重要なつなぎ役として機能している。東京大学大気海洋研究所:津田敦
海面高度
地球の重力と自転等で決まるジオイド面を基準にした海面の水位。潮汐により変化するほか、1日より長い現象に対しては海面の海流分布と対応する(地衡流平衡、北半球では海流が海面の高い方を右に見て流れる)。高気圧性の流れは中心部で海面高度が高く、低気圧性の流れは低い。人工衛星に搭載したマイクロ波レーダー高度計(衛星海面高度計)により、海面高度偏差(観測期間の平均からの偏差)の面的な分布とその時間変動を観測することができる。
東京大学大気海洋研究所:金子仁
海洋酸性化
海水中の水素イオン濃度は、水温の変化や生物活動など、さまざまな原因で変化するが、石油・石炭・天然ガスといった化石燃料の燃焼や森林破壊によって人為的に排出された二酸化炭素が海水中に溶け込み、弱アルカリ性の海水が中性方向に変化している現象を、特に海洋酸性化と呼んでいる。近年、人為的に排出された二酸化炭素のうち、およそ1/4は海洋に吸収されている。海洋による二酸化炭素吸収は、大気中の二酸化炭素濃度の増加を抑制し、地球温暖化の進行を遅らせる一方で、海洋酸性化によって海洋生態系を広域に変化させる可能性が高く、生物多様性や海洋生態系に依存する社会にとって大きな脅威となっている。
気象研究所:石井雅男
化学種
化学物質の総称。例えば、海水中に溶存している金属について見てみると、水和イオン(フリーイオン)として存在するものはごく僅かで、水酸化物やハロゲン化物イオンによって配位された無機錯体だけでなく、水中に溶けている有機物(有機配位子の項参照)が配位した有機錯体としても存在しており、鉄、亜鉛、銅、コバルト、ニッケル、カドミウムなどでは有機錯体が大部分を占めている。このため溶存態の金属の総濃度が同じでも、その化学種(存在形態)に応じて生物への取り込み・利用のされ易さ(生物学的利用能:bioavailability)が異なってくる。一般に、生物毒性を示す金属イオンの場合、高分子量の有機錯体の方が無機錯体よりも毒性が緩和される傾向にある。このように個々の元素はいくつかの異なった化学種として海水中に存在しており、その存在形態別に分析あるいは定量を行う研究は、スペシエーションと呼ばれる。
長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科:武田重信
化学量論
化学反応において、ある種の原子や分子の量的な関係に関する理論のこと。たとえば海水中の懸濁粒子はほぼ一定の炭素・窒素・リン比を有していることから、その体組成や生物学的な反応に関して、近似的に化学式で記述することが可能である(レッドフィールド比の項参照)。また、複数の親生物元素の溶存量の鉛直プロファイルを比較して、深層での増え方の比をもとに生物粒子の分解の反応を記述することが可能になる。
東京大学大学院農学生命科学研究科:佐藤光秀
ガバナンス
北太平洋十年変動(PDO)
北太平洋十年変動指標と親潮域の動物プランクトン生物量の長期変化
海洋研究開発機構:千葉早苗
共制限
群集純生産(NCP)
植物は光合成によって有機物を生産しているが、その一部は自らの呼吸によって消費され、残りが植物の体となって固定される。この植物が光合成によってある期間に生産した有機物の量を総生産(gross production)、総生産から植物が呼吸で消費した分を差し引いたものを純生産(net production)と呼ぶ。 海洋のある領域(例えば混合層)に植物・動物を含んだひとかたまりの生物群集が存在しているとき、その生物群集全体をひとつの「植物」とみなして、総生産や純生産を考える場合がある。この場合、有る期間内にその生物群集に含まれる全ての植物が光合成によって生産した有機物の量を「群集総生産」(gross community production)、この群集総生産から、その生物群集に含まれる全ての植物・動物の呼吸による有機物消費量を差し引いたものを「群集純生産」(net community production: NCP)と呼ぶ。 NCPは、ある期間内におけるその生物群集全体の有機物の増加量と近似的には等しい。逆に言えば、ある期間内の生物群集の有機物総量の増加量を測定する事によって、その期間のNCPを推定する事ができる。
中央水産研究所 小埜恒夫
群集多様度
種多様性の概念には「種の豊富さ」と「種組成の均等さ」の二つの要素があり、前者はある地域や生息地に含まれる種数を意味する。後者は種あたりの個体数の均等さを示す。例えば、4種100個体の2つの群集A・Bあり、Aは4種とも各25個体が存在し、Bは1種が97個体で残り3種が各1個体からなる群集であったとする。この群集AとBとでは,種ごとの個体数が偏るBよりも、種ごとの個体数が均等に近いAの方が多様性が高いと言える。
多様度指数とは「種の豊富さ」と「種組成の均等さ」の両者を含んだ尺度である。いろいろな多様度指数が考案されているが、よく用いられるものとしてShannon-WienerのH'と、SimpsonのDがある.
水産総合研究センター国際水産資源研究所:奥田武弘
群集類似度
珪藻
珪藻綱に属する単細胞の藻類で、ケイ酸質の殻を持ち、多くは浮遊性=プランクトンである。栄養塩が比較的豊富な温帯〜寒帯では、春〜夏に植物プランクトンの大増殖=スプリングブルームが起こるが、珪藻はその優占種となる。食物網においては、動物プランクトンの主要な餌となり、動物プランクトンは、さらに多くの魚の重要な餌となることから、珪藻は海鳥類や海洋ほ乳類にいたるまでの、生物生産を支える海洋生態系の基礎となる、また光合成を通じて海洋の二酸化炭素吸収においても重要な役割を持つ。
海洋研究開発機構:千葉早苗
欠如モデル
原核生物/真核生物
高栄養塩・低クロロフィル(HNLC)海域
海洋植物プランクトンの光合成がスムーズに行われるためには、栄養塩の供給と光量が共に十分でなければならない。外洋表層で不足しやすい栄養塩は窒素とリンであるが、南極海の沖合域では、表層水の硝酸塩とリン酸塩の濃度が十分高いにもかかわらず、周年にわたり植物プランクトンの現存量が低く抑えられており、海洋学の謎の一つとされてきた。その原因として、米国の海洋化学者John Martinは、表層水の溶存鉄濃度が著しく低いことを見出し、微量栄養素である鉄の不足によって植物プランクトンの増殖が制限されているとの仮説を提示した。このような海域は、高栄養塩・低クロロフィル(High-Nutrient (あるいはNitrate), Low-Chlorophyll)海域と呼ばれ、太平洋赤道域、北太平洋亜寒帯域にも広がっていて、海洋全体の20%近くを占めている。これらの海域では、50~300 km2に及ぶエリアに鉄を散布する現場実験が実施され、プランクトン生態系全体としての応答を調べることによって、Martinの鉄仮説の検証が試みられている。長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科:武田重信
高度回遊性種
一般的な意味では、公海域や各国200海里内の排他的経済水域にまたがる広い分布範囲をもち、繁殖・成長・摂餌などの生活史とともに長距離の回遊を行う海洋動物の総称。狭義には、国連海洋法64条および65条(付属書I)に規定された、マグロ類、カジキ類、シイラ類、シマガツオ類、サンマ類、外洋性サメ類、鯨類を意味する。
マグロ類 | 1. ビンナガ (Thunnus alalunga) |
2. クロマグロ (T. thynnus) | |
3. メバチ (T. obesus) | |
4. カツオ (Katsuwonus pelamis) | |
5. キハダ (T. albacares) | |
6. タイセイヨウマグロ (T. atlanticus) | |
7. スマ類 (Euthynnus alletteratus, E. affinis) | |
8. ミナミマグロ (T. maccoyii) | |
9. ソウダカツオ類 (Auxis thazard, A. rochei) | |
シマガツオ類 | 10. シマガツオ科 (Bramidae) |
カジキ類 | 11. カジキ類 (フウライカジキTetrapturus angustirostris, チチュウカイフウライカジキT. belone, クチナガフウライT. pfluegeri, ニシマカジキT. albidus, マカジキT. audax, T. georgei, クロカジキMakaira mazara, シロカジキM. indica, ニシクロカジキM. nigricans) |
12. バショウカジキ類 (バショウカジキIstiophorus platypterus, ニシバショウカジキI. albicans) | |
13. メカジキ(Xiphias gladius) | |
サンマ類 | 14. サンマ類 (ニシサンマScomberesox saurus, S. saurus scombroides,サンマCololabis saira, C. adocetus) |
シイラ類 | 15. シイラ類 (シイラCoryphaena hippurus, エビスシイラC. equiselis) |
外洋性サメ類 | 16. 外洋性サメ類 (カグラザメHexanchus griseus, ウバザメCetorhinus maximus, オナガザメ科Alopiidae, ジンベエザメRhincodon typus, メジロザメ科Carcharhinidae, シュモクザメ科Sphyrnidae, ネズミザメ科Isuridae) |
鯨類 | 17. 鯨類 (マッコウクジラ科Physeteridae, ナガスクジラ科Balaenopteridae, セミクジラ科Balaenidae, コククジラ科Eschrichtiidae, イッカク科Monodontidae, オオギハクジラ科Ziphiidae, マイルカ科Delphinidae) |
水産総合研究センター国際水産資源研究所:清田雅史
国連気候変動枠組条約
古細菌(アーキア)
原核生物であるが、細菌とは進化的に異なる生物群で、超高熱菌や高度好塩菌といった極限環境に生息するものが有名だが、海や水田など環境中に普遍的に分布している。従来は、細菌として認識されていたが、カール・ウーズによってrRNA遺伝子を用いた全生物分類群を対象とした進化系統解析が行われた結果、細菌(Bacteria)と真核生物(Eukarya)のいずれにも分類されない第三の生物群の存在が明らかとなった。この第三の生物群に対して古細菌(Archea)という呼称が付けられた。
東京大学大気海洋研究所:浜崎恒二
コロイド
水中に分散している巨大分子や原子・分子の集合体で、10-7~10-5 cmの大きさの粒子。一般的な海水の分析では、孔径2×10-5~4×10-5 cmのろ紙を通過するものを“溶存態”と定義するので、コロイドは粒子であるにも関わらす“溶存態”の一部として測定される。コロイドを真の溶存物質と分ける際には、分子量1000以上の微小粒子を捕捉する限外ろ過膜などが用いられる。コロイド状物質としては、無機物や高分子有機化合物だけでなく、微小な鉱物粒子を核として、そのまわりに生物起源の有機物が金属イオンとともに結合しているものも存在している。コロイドは、海水中の重金属や有機化合物を取り込みながら、他のコロイドと凝集して粒径を大きくし、やがて沈降していくため、それらの物質の海水から堆積物への除去過程において重要な役割を果たしている。
長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科:武田重信
根拠に基づく政策
再生生産
次世代(超並列)シークエンサー
第一世代とされるサンガー法(蛍光キャピラリーセルシークエンサー)に代わって、飛躍的な配列決定能力を持ったシークエンサー群。百万から数億個の微小なスポット上で、DNAポリメラーゼやDNAリガーゼによる反応を並列的に行い、4種類の塩基の付加反応をリアルタイムで光学的あるいは電気的に検出することにより、超並列的に塩基配列を決定することを特徴とする。超並列シーケンサーとも呼ばれる。ロシュ社の454、イルミナ社のHiSeq、アプライドバイオシステム社のIonPGMなどがある。例えばRoche 454では1回の測定で800塩基対程度の塩基配列を100万リード解読することができる。これらの機器を使ってメタゲノム解析や、ゲノム解読などが飛躍的に進みつつある。
東京大学大気海洋研究所:津田敦
硝化
植物プランクトン
新生産
生元素
生物活動に必要な元素。炭素 (C)、水素 (H)、酸素(O)、窒素 (N)、リン (P)、硫黄 (S)、カルシウム (Ca)、カリウム (K)、マグネシウム (Mg)、ケイ素 (Si) などは要求量が多く、多量元素と呼ばれる。その他の元素は少量で良いため、微量元素とよばれ、鉄 (Fe)、ホウ素 (B)、亜鉛 (Zn)、銅 (Cu)、マンガン (Mn)、モリブデン (Mo)、ナトリウム (Na)、塩素 (Cl)、コバルト (Co)、ヨウ素 (I) などが含まれる。
東京海洋大学:橋濱史典
生食連鎖
生物季節(Phenology)の変化
生物の生活史における、産卵、回遊、などの季節的イベントのタイミングのずれ。例えば、桜の開花時季や、渡り鳥の渡りのタイミングなどの年による変化を指す。海洋生態系においては、経年的な寒暖の変化により、植物プランクトンの春の増殖=スプリングブルームのタイミングや、動物プランクトンの生産ピーク時季が変化することが報告されている。
海洋研究開発機構:千葉早苗
生物地理
空間的な生物の分布と、分布を規定する要因とその結果を扱う研究分野。分布を規定する要因としては、移動拡散、増殖、死亡、種間関係、地史、進化などが需要な要因とされる。基本的には景観スケールから全球スケールまでの、比較的大きなスケールを扱い、近年はプレートテクトニクスの解明や、遺伝的手法の高度化により、生物系統地理学として発展してきている。しかし海洋に関しては、物理的な障壁が少なく従来の生物地理概念では不十分な部分が多い。
東京大学大気海洋研究所:津田敦
生物地理分布(Biogeography)の変化
生物群集の地理的な分布が変化すること。例えば日本では、最近数十年で南方系の昆虫や植物の分布の北進が報告され、温暖化の影響が示唆されている。海洋生態系においても、ここ数十年で世界の海域で水温の変化とともに生物群集の緯度方向の分布域の変化が起こっている。要因としては、単純な温度変化の影響のみならず、気候変動に伴う海流の向きや強さの変化が考えられている。
海洋研究開発機構:千葉早苗
生物の多様性に関する条約
生物ポンプ
セジメントトラップ
ナウアー型セジメントトラップ。
水産総合研究センター東北区水産研究所:齊藤宏明
絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約
全アルカリ度
海水などの水溶液に溶けている強アルカリ性物質の濃度の総和を、全アルカリ度と呼ぶ。海水中の全アルカリ度は、海水1kgあたりおよそ0.0023モルだが、その大半が炭酸で中和されているために、海水は弱アルカリ性になっている。全アルカリ度を全炭酸濃度と合わせて測り、炭酸系の計算をすることで、海水中の水素イオン濃度や炭酸物質それぞれの濃度を求めることができる。海水中の全アルカリ度は、降水や海水の蒸発のほか、生物による炭酸カルシウムの殻の形成や溶解によって変化する。
気象研究所:石井雅男
大陸棚限界委員会
炭酸系
海水などの水溶液に溶けた二酸化炭素が、水素イオンの濃度に応じて、炭酸、炭酸水素イオン、炭酸イオンに変化する化学反応の化学平衡系を炭酸系と呼ぶ。また、これらの炭酸物質の濃度の総和を全炭酸濃度と呼ぶ。海水中の全炭酸濃度は 海水1 kgあたりにおよそ0.002モル(炭酸水素ナトリウム(重曹)換算で0.17グラム)だが、海水は弱アルカリ性(塩基性)であり、その条件では炭酸物質のおよそ90%は炭酸水素イオンになっている。海洋生物の光合成・呼吸などによって引き起こされる炭酸系の変化は、大気と海洋の間の二酸化炭素の交換や、貝やサンゴなど多くの生物が持つ炭酸カルシウムの殻の形成や溶解に影響する。
窒素固定
中央モード水
主に黒潮続流より北側で形成されるモード水のことを言う。続流南で形成される北太平洋亜熱帯モード水と比べ密度が大きく(重く)、したがって、亜熱帯モード水より東方(日付変更線より東)に且つ深い層にまで分布している、一部は、北緯25度付近まで輸送され、その東向きの流れ(亜熱帯反流)の形成に影響している。最も重い層(26.5σθ = 1026.5 kg m-3)付近では、溶存酸素の10年スケール変動が観測され、比較的広域且つ長期の海洋循環や変動にかかわるものとして研究されてきた。一方で、形成域にあたる続流北側は、無数の海洋前線構造や、渦によって満たされており、中央モード水の形成は海洋中規模(~200 km)スケールの現象と密接に関わるものと考えられてきている.
海洋研究開発機構:纐纈慎也
中規模渦
水平スケールによる渦の区分の1つ。「中規模」は「メソスケール」と同義(海洋の場合、メソスケールの項を参照)で、元々はマクロ(巨視的)とミクロ(微視的)の中間規模を意味するが、実際には緯度(コリオリ力)と成層(密度の鉛直勾配)で力学的に規定されるスケール(海洋では数十~数百 km,亜熱帯循環・亜寒帯循環より小さい)を差すことが多い。低気圧渦/高気圧渦の項も参照のこと。
東京大学大気海洋研究所:伊藤幸彦
低気圧渦/高気圧渦
中規模渦を渦流の旋回方向で区分したもの。低気圧渦は北半球では反時計回り(南半球では時計回り)、高気圧渦は北半球では時計回り(南半球では時計回り)。大気の低気圧、高気圧に相当する。低気圧渦は海面水位が低く、密度・栄養塩躍層が浅く、高気圧渦は海面水位が高くて密度・栄養塩躍層が深い。密度構造に温度が支配的である場合、低気圧渦、高気圧渦内部の水塊はそれぞれ周辺より低温、高温となるため、冷水渦、暖水渦と記述されることもある。ただし、低塩分水の寄与が大きい冷水性の高気圧渦も存在する。
東京大学大気海洋研究所:伊藤幸彦
転換効率
生態系の食う食われるの関係(食物網)におけるエネルギーや物質の伝達効率を表す値。i)食べられる側(被食者)と食う側(捕食者)の1対1の関係を微視的に捉え,被食者の食べられた量に対し捕食者が生産する量の割合を表す場合と、ii) 食物網全体を巨視的に捉え、植物による基礎生産が栄養段階の頂点捕食者(もしくは漁獲対象種のように人間にとって有益な種)の生産量をもたらすまでのシステム全体の効率を表す場合がある。i)の場合には被食者の食物としての質や捕食者の栄養効率が、ii)の場合、個々の捕食被食関係における転換効率や基礎生産から頂点捕食者に至るまでの捕食被食関係の段階数(食物連鎖長)が転換効率を左右すると言われている。
水産総合研究センター東北区水産研究所:加藤慶樹
デトライタス(懸濁体非生物粒子)
マリンスノー。
水産総合研究センター東北区水産研究所:齊藤宏明
動物プランクトン
篤志船舶(VOS/SOOPs)による観測
VOS = Volunteer Ship, SOO = Ship of Opportunity。調査船によらず、タンカーやフェリーボートなどの船舶による海洋観測を指す。海鳥類の目視調査や、表面海水の連続観測/分析など、研究員が乗船する場合もあれば、連続プランクトン採集器観測のように、取扱が容易な機器の場合は、オペレーションも船員が行うケースもある。観測項目は限られるが、定期的に広域で連続的なデータの取得が可能であり、また通常観測と比較してローテク・ローコストであるため、海洋科学の先進国のみならず多くの国で導入しやすい利点がある。篤志船舶による広域観測を、重点海域におけるハイテク調査船・観測機器による定点多項目調査と組み合わせることにより、海洋生態系の地球規模モニタリングが可能となる。
海洋研究開発機構:千葉早苗
独立栄養生物/従属栄養生物
トップダウン/ボトムアップ効果
生態系は気候変動といった物理的環境の影響を受けて変動するだけでなく、食物網を通じた生物間の相互作用によっても変動する。高次捕食者の捕食圧が栄養カスケードを通じて低い栄養段階の生物に与える影響をトップダウン効果、植物による基礎生産量が高次栄養段階の生物に及ぼす影響をボトムアップ効果と呼ぶ。海洋生態系においては、一般に植物プランクトンによる基礎生産量がその水域の生産量や高次生物の動態を決定づけるボトムアップ効果が一般的と考えられている。海洋におけるトップダウン効果の例としては、岩礁潮間帯においてヒトデの貝類に対する捕食圧が群集多様性を左右することを除去実験により示したPaineの研究や、ラッコのウニに対する捕食圧がケルプ(海藻)の現存量に間接効果を及ぼしていることを示したEstesの研究が有名ではあるが、むしろこれらは希な例と考えられてきた。しかし、近年特に漁業による高次捕食者の減少が、トップダウン効果を通じて生態系の構造や機能に及ぼす作用についての研究が精力的に行われている。一方ボトムアップ効果については、地球温暖化などの大規模環境変動が基礎生産を通じて生態系に及ぼす影響の予測が積極的に進められている。ただし、ボトムアップ効果とトップダウン効果は同時に双方向で働くものであり。現場の生態系における実証データから両者の効果を弁別し比較することは容易ではない。
水産総合研究センター国際水産資源研究所:米崎史郎
流し網
細長く帯状に鉛直となるように浮子(うき)と沈子(おもり)を使って仕立てた網漁具に魚体を刺させたり絡ませたりする刺網(さしあみ)の一種。一区切りを1反(長さは約50 m,高さ約7 m)として、多数を連結してうき流し網として海面近くを漂流させ、表層回遊性の動物の遊泳を遮断して漁獲する。網目に基づく漁獲物のサイズ選択性をもつが、魚種に対する選択性は小さく、多様な魚種を効率良く漁獲できるため、外洋表層における大型移動性種のサンプリングに適している。
水産総合研究センター東北区水産研究所:酒井光夫
ニューラルネット法
脳の学習機能を数学的に表現することを目指したアルゴリズム。パラメータ間の非線形、不連続な関係を調べるのに有用な手法であり、本研究では、海洋表層の二酸化炭素分圧や栄養塩の時空間分布を推定するために用いている。
国立環境研究所:中岡慎一郎
橋渡し研究
微生物食物連鎖
微生物炭素ポンプ
表層混合層/中深層/深層
植物プランクトンが光合成によって呼吸量を補償するだけの光量の到達する深さを補償深度(compensation depth)といい、それ以浅を有光層(euphotic layer)という。補償深度は海面に到達した太陽放射の1%が到達する深度とおおよそ一致する。有光層深度は海水中の植物プランクトン、溶存有機物、デトライタス密度によって変化するが、200 m以下である。
有光層以深の、おおよそ1000 m程の深さまでは、光合成には十分ではないものの生物が感知できるだけの強さの太陽光が到達する。この有光層以深もしくは200 mから1000 mまでの深度を中深層(mesopelagic zone)と呼ぶ。中深層は薄暮層(twilight zone)もしくは弱光層(disphotic zone)とも呼ばれ、有光層から沈降する有機物の大半が分解されるため、中深層底部には酸素極小が形成される。また1000m以深を深層(bathypelagic zone)と呼ぶ。
水産総合研究センター東北区水産研究所:齊藤宏明
微量金属
プランクトンの機能的多様性(PFT)
種の豊かさの指標となる「種の多様性」と異なり、生態系内において同様の役割を担う生物群を、ひとつの機能グループとし、それらグループの構成に基づく多様性を指す。例えば植物プランクトンでは、食物網において大型動物プランクトンの餌になる珪藻と、小型植物プランクトンの餌になる、珪藻以外の小型の植物プランクトンといったサイズの違いに基づいた多様性や、ケイ酸質の殻を作る藻類(珪藻)、炭酸カルシウムの殻を作る藻類、窒素固定藻類等、生理生態に基づく多様性が挙げられる。動物プランクトンでは、植物プランクトン食者、雑食者、捕食者等,食物網における役割に基づく多様性などがある。
海洋研究開発機構:千葉早苗
フレーミング
フローサイトメトリー
細胞の懸濁液を細い流路に流すことによって細胞を一列に並べ、そこにレーザー光を当てることによって細胞の大きさや色素の含量を細胞ごとに調べる測定技術。当初は多細胞生物の培養細胞や血球の測定に用いられていたが、海水中のプランクトンをそのまま測定することができるため、1970年代後期に海洋学に導入された。特に高密度で存在するが顕微鏡での観察が難しい、10ミクロン以下の植物プランクトンの解析に強みがある。植物プランクトンは蛍光物質としてクロロフィルを持つため、染色を行わなくても計数が可能であるが、ある種の分子やイオンと結合する色素で染色することによって、生理状態の診断などに応用することも可能である。
フローサイトメトリーをおこなう機械(フローサイトメーター)の内部。サンプルが流れる透明なセルにレーザーが照射されている。粒子にレーザーが当たって生じる蛍光や散乱光を集め、測定する。
東京大学大学院農学生命科学研究科:佐藤光秀
マイクロネクトン
オキアミの一種。
東京大学大気海洋研究所:津田敦
マスバランスモデル
生物量(mass,湿重量や炭素量で表す)を単位として平衡状態にある捕食被食関係(食物網)を定的に表す生態系モデルの総称。生態系全体が安定した平衡状態にあり、生産量と消費量の釣り合いがとれていると仮定した上で、食物網の各構成要素の現存量と構成要素間の生物量の流れを推定し、生態系の構造や機能の特徴を定量的に記述するモデルである。代表的なマスバランスモデルとして、エコパス(Ecopath)がある。
独立行政法人水産総合研究センター国際水産資源研究所:米崎史郎
マルポール条約
無機化
メソスケール/サブメソスケール
物理現象の水平的な規模の区分。「メソスケール」はマクロ(巨視的)スケールとミクロ(微視的)スケールの中間が原意であるが、実際には力学的に規定される特徴的スケールを差すことが多い。海洋では「中規模」と同義で、水平数十~数百 km規模に相当する。海洋にはこのスケールの渦が数多く分布し、メソスケール渦、中規模渦と称される。
「サブメソスケール」はメソスケールより小さいスケールの意で、メソスケールより小さい水平スケール1 km前後から十 km程度の現象に対応する.近年のコンピューター処理能力の向上や観測機器の発達に伴う研究の発展により,サブメソスケールの現象が、物質の輸送や海洋生物の分布に重要な役割を果たしていることがわかってきた。
東京大学大気海洋研究所:金子仁
メタゲノム解析
ゲノムとは1個体の持つ遺伝子情報であるが、メタゲノム解析とは多くの種や個体が混在する群集の遺伝子情報を網羅的に解析し、環境中の物質代謝を推測したり、そこにいた種を推測する手法を指す。本プロジェクトにおいては、特定の配列を網羅的に解読することによって群集解析を行っている。
東京大学大気海洋研究所:津田敦
モード水
もともとは、水温、塩分が水平・鉛直的に一様で頻度分布の最頻値(モード)となる水塊を指す。一般には、海面における冬季の強い混合によって鉛直的に一様の水温・塩分値となる海水が形成され(混合層)、その海水が春季以降も亜表層に残り一部が海洋循環に沿って海洋内部に輸送される(サブダクション)ことで、広い海域に比較的高い頻度で観測される水温・塩分値の海水を差すことが多い。このモード水は,春季から秋季にかけて観測される亜表層に存在する鉛直的な水温・塩分一様層として定義される。このような冬季混合層を由来とするモード水は、その広域な分布にサブダクションが関係していることから、主に各大洋の亜熱帯循環内に分布しており、海洋表層での大気との熱、物質の交換の状況を海洋内部に伝え、一時的(5-数10年といわれる)記録する海水として研究されている。また、その形成過程に混合層の深化による中・深層(富栄養な)海水の表層への供給を含み、春季から秋季にかけては、表層有光層の直下にあって表層の生物生産の背景的環境要因としても注目されてきた。
海洋研究開発機構:纐纈慎也
モード水渦
亜表層にモード水様の均一水塊を保持する高気圧渦。高気圧渦内では冬季の冷却を受けて深い混合層が発達するが、それにともない均一化した水塊の上部が春季以降に大気からの加熱を受けて成層化することにより、亜表層にモード水様の構造が出現する。表層の密度・栄養塩躍層は渦中心部で浅く、風と高気圧性の渦流の相互作用による湧昇で効率的に栄養塩を有光層に供給する機構が指摘されている。
東京大学大気海洋研究所:伊藤幸彦
モード2
有機配位子
水中に存在している有機物の中で、カルボキシル基、水酸基、アミノ基など金属イオンに配位して錯体を形成する能力(錯形成能)をもつ高分子化合物のこと。海水中の有機配位子としては、植物プランクトンや微生物などから海水中に分泌される有機物、生体の死骸が分解される過程で溶け出す細胞内の構成成分、フミン物質(腐植物質)などが候補として挙げられているが、その化学構造や組成については良く分かっていない。海水中の金属イオンが有機配位子と錯体を形成すると、化学反応性が変化して、生物学的利用能(化学種の項参照)や毒性の低下、溶解量の増加などを引き起こすので、有機配位子の濃度および性質と、溶存態金属の総濃度に占める有機錯体の割合を把握することが重要になる。
長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科:武田重信
有色溶存有機物
溶存有機物の中で紫外~可視領域の光を吸収する性質をもつ有機物の総称。一部は蛍光特性も示す。その主要な起源は、沿岸域では土壌由来有機物(腐植物質)、外洋域では微生物による生成と考えられている。生物学的分解には高い抵抗性を示すが、太陽光で容易に分解される(光分解)ものが多い。
北海道大学:山下洋平
溶存酸素
海水などの水溶液に溶けた酸素を溶存酸素と呼ぶ。一般に、酸素は水温が低いほど海水に溶けやすい。海水中の溶存酸素は、大気から海面を通じて溶け込むか、太陽光が届く海面付近で植物プランクトンの光合成によって作られる。そのため、表面付近では溶存酸素濃度が高く、ほぼ飽和している。一方、太陽光が届かない深海では、動物プランクトンやバクテリアなどが呼吸によって溶存酸素を消費するため、その濃度は低くなっている。したがって、溶存酸素の濃度を深海で測れば、その海水が深海に沈んで以後、どれほどの量の酸素が呼吸(有機物の分解)によって消費されたか知ることができる。
気象研究所:石井雅男
溶存有機物/粒状有機物
予防原則
ラグランジアン観測
リービッヒの最小律
生物の生長には様々な物質が必要であり、その必要な量は物質によりさまざまである。種々の物質の必要量の比を供給量で割ったとき、もっともその値が小さい物質が生物の生長を制約する(制限要因、律速要因)という原則を、その提唱者であるドイツの科学者の名前を取りリービッヒの最小律という。もともとは窒素・リン・カリウムという植物の三大栄養素に関しての法則であったが、のちに日照などの物理条件を加えてより一般的な法則に拡張された。実際には各種の栄養や物理条件の必要量は互いに複雑に絡み合っている(共制限の項参照)ため、単純にリービッヒの最小律が適用できる例は多くない。
東京大学大学院農学生命科学研究科:佐藤光秀
リスクマネジメント
(生態系の)レジリアンス(復元力)
生態系に外部からストレスが加わった場合に、元の状態を維持する復元力や回復力を表す用語であるが、いくつかの異なる意味で用いられる。i) 1つ目は静的平衡の考えに基づき、単一の平衡点からストレスによって生態系に変化が生じたときに、元の状態へ回帰するまでの回復時間の長短を復元力とするもので、工学的復元力、安定性と呼ばれることもある。ii) 2つ目は動的平衡の考え方に基づき、ある状態で安定している生態系にストレスが加わった場合、他の平衡状態への移行を引き起こさない外乱の閾値を表すもので、生態学的復元力とも呼ばれる。復元力はボールとカップのモデルでしばしば表現されるが(下図)、工学的復元力(回復時間)はカップの斜面の角度、生態学的復元力はカップの縁の高さを表すものである。複数平衡点の具体例として湖、湿地、乾草牧地の相変化が知られており、必ずしも人為影響がなくても相変化は起こり得る。海洋環境の大規模な変化によって優占種が変化するレジームシフトも、複数平衡点間の相変化の例と考えられる。
工学的復元力(回復時間)の例。
左の方が復元力が大きい(回復時間が短い)。
生態学的復元力を表すボールとカップのモデル。左の方が復元力が大きい(別の平衡点に移行する閾値が大きい)。
水産総合研究センター国際水産資源研究所:清田雅史
レッドフィールド比
連続プランクトン採集器(CPR)
イギリスのハーディ卿によって1920年代に開発された、プランクトン採集器。現在までほぼ同じデザインで、観測が実施されている。航行中の船の船尾から曳くことにより、取水口から海水とともに入ってきた動物/植物プランクとンを2枚のメッシュで捉え、ロール状にして保存することで、一回の観測で500海里のプランクトンを連続的に採集することができる。ハーディ研究所がリードするCPR観測ネットワークにより、大西洋では、最近数十年に起こった様々な海洋生態系の変化が明らかになった。太平洋では2000年にCPRプロジェクトがスタートし、バンクーバーと北海道を結ぶラインや、アラスカ湾から南方にのびるラインで年数回の観測が続けられている。海洋研究開発機構:千葉早苗
Argoフロート
海洋は、地球の気候、環境変動のシステム一部として重要な役割を担っていることが認識されている。特に地球における中長期的(10-100年)な熱収支変動においては、海洋の熱容量が大気の1000倍と試算されていることから、その水温・塩分の監視が重要であるとされてきた。この全球海洋の監視のために構築された観測システムがArgo計画である。Argo計画では、2000 mまで観測可能な自動昇降観測フロート3000台を全海洋に展開し大洋規模の貯熱量変化の監視を開始している。この計画の元に開発されたフロート自体は通称"Argoフロート"などと呼ばれている。現在では、比較的高頻度な観測を低費用で実現できるフロート自体を利用し、化学センサーを搭載することで地球化学、海洋生態学への応用にその観測能力を拡張した研究が開始されている。このようなフロート開発により、翻って、海洋熱・循環変動監視からより統合的な海洋環境変動監視へとArgo計画自体の来的なアップデートが議論されるに至っている。
海洋研究開発機構:纐纈慎也
DGGE (Denaturing Gradient Gel Elactrophoresis)
変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法。アクリルアミドゲルを用いてDNA断片を電気泳動する手法の一つで、ゲルの垂直あるいは水平方向にDNA変性剤の濃度勾配を付けることにより、同一サイズのDNA断片であっても塩基配列の違うものを分離することができる。微生物群集由来の16S rRNA遺伝子をPCR増幅し、DGGE法によって解析することにより、群集構造(種組成と各種の割合)の時空間的な変化を見ることができる。
東京大学大気海洋研究所:浜崎恒二
OTU (Operational taxonomic unit)
従来の生物の分類は形態学的な差異に基づいた種の記載によるが、近年、DNA配列の解読が進み、形態学的には分類できないが、種と同程度の遺伝的差異を持つ隠蔽種が多く示唆されたり、知識や経験を要する形態分類に代わって遺伝子配列を分類の基礎とする研究が増加している。また、微生物のような形態情報に乏しい生物群では、遺伝子配列に基づく分類や種同定が必須である。OTUとは、形態分類によらず、遺伝子配列の差からある一定の閾値を用いて便宜的に規定した分類単位であり、種に準じる分類群と考えることができる。
東京大学大気海洋研究所:浜崎恒二
PFT海洋生態系モデル
PFT=Plankton Functional Typeであり、プランクトンの機能的多様性(前述参照)を考慮した生態系モデルを指す。具体的には、例えば、植物プランクトンを大型、小型に分類して栄養塩の取り込み経路にバリエーションを加えたり、動物プランクトンを植食性と肉食性に分類して食段階における役割を区別するなどのアプローチがある。PFTモデルは、植物プランクトンおよび動物プランクトンを、それぞれひとまとめのグループとして扱う単純な生態系モデルと比較して、より複雑な生物過程を表現することが可能である。
海洋研究開発機構:千葉早苗
RuBisCO
植物が行う光合成の炭素固定反応であるカルビン-ベンソン回路に関与する唯一の酵素(リブロース1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ)。地球上で最も量が多いタンパク質と考えられている。RubiSCO大サブユニットをコードするrbcL遺伝子の塩基配列を読むことによって、海洋に生息する植物プランクトン(特に地球上の光合成の約20%を担う珪藻類)の群集解析を行っている。
北海道大学大学院地球環境科学研究院:鈴木光次
16S rRNA/28S rRNA
リボソームはRNAの情報からタンパク合成を行う細胞内小器官で、タンパクとRNAから構成されるが、そのRNAをrRNAと表記する。リボソームは大小二つのサブユニットから構成され、16S rRNAは原核生物(古細菌と細菌)の小サブユニットを構成するRNAであり、真核生物の場合は18S rRNAである。一方、28S rRNAは真核生物の大サブユニットを構成するRNAの一つであり、原核生物の大サブユニットを構成するのは23S rRNAである。リボソームははあらゆる生物に共通に含まれる生体高分子であり、rRNAをコードする遺伝子の塩基配列は生物種や系統を反映するため、本プロジェクトでは、細菌や動物プランクトンの分類を効率的に行うための形質として利用している。
東京大学大気海洋研究所:津田敦