科学研究費補助金 新学術領域研究「新海洋像:その機能と持続的利用」

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若手研究者海外派遣報告(東京大学大気海洋研究所 高木悠花)

科学研究費補助金新学術領域研究「新海洋像:その機能と持続的利用」(NEOPS)若手研究者海外派遣プログラムの援助により、2016年8月中旬から9月にかけての約3週間、ドイツのブレーメン大学に属する海洋環境科学センター(MARUM)に滞在しました。現地では、Michal Kucera教授の研究室にvisiting researcherとして受け入れていただき、研究活動を行いました。


図1. MARUMのメインビルディング。

これまでのNEOPSプロジェクトの研究により、貧栄養亜熱帯海域では、プランクトンが生元素の貯蔵や供給に重要な役割を果たしていることが明らかとなっています。その中でも、貧栄養環境に適応した生活史戦略とされる動物プランクトンの光共生(有孔虫や放散虫にみられる藻類との細胞内共生関係)は、何千細胞もの共生藻が活発に光合成を行える場を提供しており、光共生生物そのものが一次生産のホットスポットになっているとも言われています。しかし、どの種が光共生するのか、共生藻はどれほど光合成しているのか、また光共生種の分布と海洋環境条件との関係など、まだ多くは解明されていません。私はこれまで、浮遊性有孔虫という動物プランクトンの光共生を対象に、主に生活史や生理生態に関する研究を行ってきましたが、研究をさらに進展させ、光共生という現象が貧栄養海域の生態系、生物多様性、さらには物質循環にどう貢献しているのかを明らかにしたいと考えています。そこで本滞在では、光合成を測定できるアクティブ蛍光法に習熟すること、浮遊性有孔虫の光共生系の多様性を明らかにするための遺伝子解析法を習得すること、および今後行っていく共同研究について打ち合わせをすることを目的としました。


図2. ラボメンバーとキャンパス内での昼食後のひととき。
後列左端がKucera教授、前列左から2番目が筆者。ドイツ、
フランス、イタリア、オランダ、チェコ、ルーマニア、アメ
リカ+日本の多国籍メンバー(写っていないメンバーには、
イギリス、ポルトガル、スイス、南アフリカ、モロッコ出身
者も)。

受け入れ先のKucera教授は、主に有孔虫を対象として、生態、分子生物地理、フラックス、それらの気候変動に対する応答まで幅広く研究しており、業界を牽引する研究者です。Kucera教授とは数年前の国際学会で知り合い、私が口頭発表した研究内容に強く興味を持っていただいたことから、今回の滞在先に選びました。また、ドイツ船の航海に一緒に乗らないかとお誘いをいただいていたという経緯もあり、今後の打ち合わせも兼ねての訪問としました。MARUMは海洋底地質や古環境解析の研究室が多い研究所ですが、Kucera教授の研究室ではプランクトンネット、セディメントトラップ、さらに深海堆積物を使って、海洋の生物圏(biosphere)と地圏(geosphere)をつなぐような研究を展開しています。研究室のメンバーは非常に国際色豊かで(図2)、各国からKucera教授と共同研究を求めてやってきているのだという印象を受けました。ここではメンバーの誰もが、何らかの形で有孔虫を扱った研究を行っています。それは殻であったり遺伝子であったり、はたまた有孔虫フラックスの変動モデルであったりと様々ですが、生きた浮遊性有孔虫そのものを扱ってきた私のような人は稀でした。そのためか、有孔虫がどのように生きているかという話は大変興味を持って聞いていただけました。

訪問数日目に行われたKucera研究室のグループミーティングでは、私が博士課程で行った研究内容について、「Photosymbiosis in planktic foraminifers: Photophysiology and stable isotopic signatures」というタイトルでセミナー発表を行いました。小一時間にわたってじっくりと話をする機会をいただき、非常に有意義な議論をすることができました。また滞在期間の前半には、以前から知り合いであったChristianeにPAM蛍光装置による底生性の有孔虫のアクティブ蛍光測定を教えていただき、後半には分子実験のラボを任されているRaphaelから、遺伝子解析に関わる手法を,実験をやらせてもらいながら懇切丁寧に教えていただきました。今後の自分の研究に応用していける新たな技術を身につけることができたのは大変よい機会となりました。貴重な時間を割いて実験に付き合っていただいた二人には、本当に感謝しています。


図3. ブレーメンの音楽隊の像。ロバの両足
を触りながら願い事を唱えると叶うと言わ
れているらしい。

また、週末を利用して、オランダのユトレヒト大学で開催された有孔虫に関する国際ワークショップ(IFA workshop)にも参加しました(隣国で開催されるワークショップに電車移動で気軽に参加できるというのもヨーロッパならではで、逆に日本が島国であることを痛感させられます)。各国の研究者らの最先端の研究発表を聞けたことはよい刺激となりましたし、中でも、光共生生物内の栄養動態についてや、光共生が亜熱帯海域の物質循環に果たす役割についての議論を深めることができたことは非常に大きな収穫でした。ここでディスカッションしたことは、現在執筆中の論文の中で早速活かすことができそうです。

今回の派遣は、私にとっては初めての海外研究室での滞在でしたが、ドイツでの生活、研究室での日々、どれをとっても非常に楽しく、刺激的で、充実した3週間を過ごすことができました。また、同世代のポスドク研究者や博士課程の学生と交流でき、お互いの研究の話や、これからやりたいと、どんな研究をしていくべきか、また研究を続けていく上での悩みなど、いろんなことを話し、共有できたと感じています。今回このような貴重な機会を与えてくださったNEOPSおよびその関係者のみなさま、また滞在を快く受け入れてくださったKucera教授とラボメンバーには心より感謝申し上げます。ここで得た経験と、人とのつながりを活かし、今後とも益々研究に励んでいきたいと思います。

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