科学研究費補助金 新学術領域研究「新海洋像:その機能と持続的利用」

トピック

熱帯外洋域における植物プランクトン-海洋細菌-溶存有機物間の相互作用(海洋研究開発機構 多田雄哉・北海道大学 鈴木光次)

海洋において、植物プランクトンと海洋細菌はそれぞれ、溶存有機物の「生産者」および「分解者」として密接に関連(相互作用)しており、これらの相互作用の変動は海洋表層における炭素、窒素、リンなどの物質循環効率を変化させる主要因の一つであると考えられています。これまで、沿岸海域における植物プランクトン-海洋細菌-溶存有機物間の相互作用に関しては、多くの研究例があり、詳細に調査されてきました。しかしながら、植物プランクトンおよび海洋細菌の群集組成が沿岸域のそれらとは大きく異なる外洋域においては、研究例が著しく少なく、これらの相互作用を解明することは、海洋における物質循環機構を理解する上で非常に重要であると考えられます。

植物プランクトンが生成する溶存有機物のうち、海洋細菌の炭素・窒素源となる重要物質の一つとして、溶存態アミノ酸が挙げられます。これまでの研究で、異なる系統群に属する植物プランクトンは異なるアミノ酸組成比を持つ溶存有機物を産生することが報告されていました。しかしながら、これらの溶存有機物の供給が、どのように外洋域における海洋細菌の群集構造を変化させるのか?また、どのようなアミノ酸が細菌群集構造の変化に対して重要なのか?といった情報はこれまでありませんでした。

このような背景の中、本研究では、外洋性の植物プランクトンであるPelagomonas calceolata(ペラゴ藻)、Synechococcus sp.(ラン藻)、Thalassiosira oceanica(珪藻)から抽出した溶存有機物のアミノ酸組成を解析すると同時に、これらの抽出物質を天然海水に添加する培養実験を太平洋赤道域において実施し、細菌群集構造の動態を解析することで、熱帯外洋域における植物プランクトン-海洋細菌-溶存有機物間の相互作用を明らかにすることを試みました。

高速および超高速液体クロマトグラフィーを用いた溶存態アミノ酸分析の結果より、抽出物質中のアミノ酸組成比は植物プランクトン株間で異なることが明らかとなりました。また、これらの組成の違いは遊離態画分で顕著に見られ、ペプチド態画分では見られませんでした。さらに、培養実験において、次世代シーケンサーを用いた海洋細菌群集の動態解析を行った結果、添加した植物プランクトン抽出物質毎に特徴的な細菌系統群が増加することが明らかとなりました。また、遊離態アミノ酸組成比の違いが、細菌群集構造を変化させる要因であることが明らかとなりました。本研究の結果から、異なる外洋性植物プランクトン由来の溶存有機物は異なるアミノ酸特性をもち、これらの供給が、外洋域における細菌群集構造の変化を引き起こす要因である可能性が示されました。これらの研究の成果は、外洋表層域における生物間相互作用を介した生物地球化学過程の解明に貢献すると考えられます。

本成果は、欧州微生物学会連盟の「FEMS Microbiology Ecology」誌に2016年5月付で掲載されました(https://academic.oup.com/femsec/article/92/7/fiw099/2470002/Changes-in-the-community-structure-of-free-living)。

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