科学研究費補助金 新学術領域研究「新海洋像:その機能と持続的利用」

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若手研究者海外派遣報告(東京大学大気海洋研究所 塩崎拓平)

NEOPSの若手研究者海外派遣プログラムの援助により、2015年1月中旬から3月中旬の約2ヵ月間、デンマークのコペンハーゲン大学に行ってきました。滞在させていただいたLasse Riemann博士の研究室では次世代シーケンサーMiseqを用いた窒素固定生物群集組成の解析法を学ぶことを目的としました。分子生物学的手法を用いた群集組成解析として古くから知られているのはクローンライブラリー法です。群集組成解析のためには大量の塩基配列を決定する必要がありますが、クローンライブラリー法では膨大な時間とコストがかかるため、群集組成の空間分布を把握するには大きな困難を伴うものでした。次世代シーケンサーMiseqは一度に数千万配列を読むことができ、この問題を一気に解決します。Riemann博士の研究室は窒素固定生物群集組成の解析において世界で初めて次世代シーケンサーを用いた解析を行い、この分野で先駆的な研究を行っています。

到着してから最初の一ヶ月は実験、実験の毎日でした。滞在していたのは冬。そしてデンマークは緯度で言うと、北海道よりもずっと北で、サハリンの北部くらいに位置します。そのため、太陽が出ている時間が短いだけではなく、太陽の光もとても弱いものでした。朝、真っ暗の中を家を出て、帰るときも当然真っ暗です。昼間も明るくなっても日本の明け方ぐらいの明るさにしかなりません。しかも、ほとんどずっと雨。太陽が顔を出すのは一週間に一度あるかないかです。そのためずっと暗かった印象があります。デンマークの人たちは口を揃えて、冬は来るところではないと言っていました。


コペンハーゲン大学の食堂 ここでみんなでお昼を食べます。

しかしその分、北欧の文化をよく体感できたように思います。北欧デザインが洗練されているのは長い冬に人々が屋内で快適に過ごせることを目的としていたためと言われます。私は家具付きの家を借りていたのですが、家具や内装はとてもオシャレで無駄がなく、またセントラルヒーティングで常に暖かだったので、落ち着いた気分で過ごすことができました。街にある家は同じものは一つもなく、どれも個性的でかつ周りと調和していました。興味深かったのは、ほとんどの家が大きな窓を持っていて、夜になってもカーテンを閉めないのです。それどころか、皆、窓際に照明やローソクを灯していて、うちの家の中を見てくれと言わんばかりです。デンマークの街は街灯があまりなく薄暗いのですが、家々から漏れ出る光が外を照らし、街全体がとても幻想的な雰囲気に包まれていました。大学においてもデンマークの人たちのこだわりが発揮されていました。お昼になると食堂で皆で持参したお弁当や自分たちがそこで調理した料理を食べるのですが、その食堂の椅子や机はハンスJウェグナーデザインのものが設えられてあり、食器はロイヤルコペンハーゲンの皿が使われていました。そしてそこを照らす照明はルイスポールセンのものです。全てがなにげなく使われていて、最初は大学の食堂なのに随分おしゃれだなという印象くらいだったのですが、ドイツ人の友人にそれぞれ価格を聞いたら驚愕しました。


大学近くにあるクロンボー城前で研究室の皆と記念撮影

滞在後半は実験が一段落いたので、データの解析法を学びました。また途中、ASLOの学会参加のためにスペインのグラナダを訪れました。学会にはRiemann博士も参加され、博士の紹介によって多くの著名な研究者と知り合うことができ、非常に有意義なものとなりました。

この度の滞在は実験手法を習得できただけではなく、そこでの暮らしとデンマークの人たちとの交流を通じてその文化を学ぶことができました。このような貴重な機会を与えていただいたNEOPSの若手研究者派遣のプログラムに大変感謝しています。得られたデータは現在解析を行っているところですが、私が現在取り組んでいる研究テーマ「太平洋の窒素固定生物の分布とそれら窒素固定の物質循環への寄与」についての理解を深める上で非常に重要なものとなると確信しています。今後は出来る限り早く成果を出し、恩返しできるようにしたいと思います。

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