科学研究費補助金 新学術領域研究「新海洋像:その機能と持続的利用」

トピック

若手研究者海外派遣報告(東京大学大学院農学生命科学研究科 中村賢一)

2015年7月27日-8月1日の間、NEOPSの若手研究者海外派遣プログラムの援助により、香港科技大学で開催されたCroucher Summer Course “Climate Change and Marine Ecosystems”に参加いたしました。本コースは、大学院修士・博士課程の学生、ポスドクの若手研究者を対象とし、地球規模の気候変動および大気中の二酸化炭素濃度の急激な上昇に伴う海洋生態系への影響に関しての体系的かつ包括的な理解を目的とし、開講されました。また、本コースのコーディネーターとしてHongbin Liu教授、Paul J. Harrison教授、講師としてMichael Landry教授、David Hutchins教授、Curtis Suttle教授、Minhan Dai教授、George Wong教授らの海洋学の各分野を代表する先生方が一堂に会し、各先生方による講義が行われました。受講者として、私を含めたアジア圏を主とする各国からの大学院学生やポスドクなどの若手研究者が参加し、講師陣への質問や、講師、学生が一緒になって議論を行うなどしました。


授業風景。

講義の中でも特に興味を惹かれたのは、Curtis Suttle教授の海洋性ウイルスの関わるアンモニア態窒素の再生について触れた講義でした。Curtis Suttle教授はカナダ・ブリティッシュコロンビア大学で、海洋性ウイルスの多様性および自然環境における生態学的役割について研究されていらっしゃいます。講義では、ウイルスが細菌に感染し、溶菌がおこることで増加した有機物が、未感染の他の細菌によって分解され、アンモニア態窒素の再生が促進されるといったことをお話しいただきました。私自身、修士研究において動物プランクトンによるアンモニア態窒素を研究対象としているため、ウイルスによるアンモニア態窒素再生の促進に関して非常に興味を持ちました。動物プランクトンの体表面や体内にも細菌が存在していることが知られており、そこに感染するウイルスも存在すると考えられます。動物プランクトンによるアンモニア態窒素の放出に関して、より詳細に理解する場合、よく知られている糞や尿による再生だけでなく、そのような動物プランクトンに付着する細菌やウイルスとの複雑な相互作用に伴う窒素の再生についても、ひとつの課題として明らかにすべきであると考え、大変興味深く感じました。

講義に加えて、講師の先生方と受講者とで、いくつかのグループに分かれ、受講者から先生への質問や議論をする機会を設けていただきました。この機会にMichael Landry教授にいくつか質問をさせていただくことができ、現在知見の少ないメソ動物プランクトンの気候変動による影響調査のアプローチについて、また、直接測定が困難とされる微小動物プランクトンによる無機態窒素の再生の見積もりについてなど、意見を伺うことができました。


議論風景。

また、講義や議論に加えて、ポスターセッションが設けられ、受講者が自身の研究に関して作製したポスターを持ち寄り、先生方や他の受講者とともにそれぞれの研究テーマについて質問や議論を行いました。私は「太平洋亜熱帯域黒潮流軸における窒素循環に日周鉛直移動性カイアシ類Pleuromamma abdominalisおよびP. gracilisが果たす役割」と題して発表をしました。具体的な内容としては、カイアシ類Pleuromamma属が日周鉛直移動をすると同時に、アンモニア排泄を行うことによって、亜熱帯域表層における無機態窒素の再生に貢献しているのか、それとも表層の窒素を下層へ輸送し、表層から除去するような働きを果たしているのかという問題提起のもと、これまでの修士研究で得られたデータをまとめ、発表を行いました。他の受講者からの質問を通して、測定方法について議論でき、また先生方から「リン酸などの他の栄養塩類の排泄データも加えた方がよい」等の意見を頂き、今後の研究の改善に役立つ意見を得ることができました。


修了証授与。

6日間にわたる本コースを通して、このような著名な先生方と意見を交わす貴重な機会を得ると同時に、ともに受講した各国の若手研究者とのつながりを築くことができました。早速、最新の分析手法やお互いの研究について情報交換をすることができ、研究において志を同じくする友とのこのようなつながりが、今後の研究生活においてかけがえのない財産となることを実感しています。最後になりますが、このような貴重な機会を与えてくださった本プロジェクトおよび関係者の皆様に、心より感謝申し上げます。本コースで発表したポスターの内容については暫定的なもので、修士研究として現在進行中であります。本コースで学んだことを修士論文に反映させて、成果として改めてご報告し、御恩返しができるようこれからも研究に励んでまいります。

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