科学研究費補助金 新学術領域研究「新海洋像:その機能と持続的利用」

トピック

若手研究者海外派遣報告(東京大学大気海洋研究所 平井惇也)


ハワイ大マノア校。
ワイキキからバスで20分ほどの好立地で、
自然豊かな構内では多くの亜熱帯性の植物が見られます。

独立行政法人中央水産研究所、学振特別研究員(PD)の平井惇也です。本プロジェクト内では「分子生物地理からの生物区系」の動物プランクトンを担当しています。2014年2月23日から3月10日の間、若手支援の海外派遣によりハワイ大学Erica Goetze博士の下で共同研究を行ってきたので報告します。


Pleuromamma abdominalis
写真は雌の成体で3ミリほどの比較的大型のカイアシ類。
体の横にある黒い点がPleuromamma属の特徴です。

ハワイ大では「Pleuromamma abdominalisの分子系統地理」について研究を行いました。Pleuromamma abdominalisとは熱帯・亜熱帯外洋に広く分布し、中層で大きな生物量を持つ浮遊性カイアシ類です。このPleuromamma abdominalisは顕著な日周鉛直移動をすることが知られており、海洋における炭素や窒素の輸送において重要な役割を果たしています。また、Pleuromamma abdominalisは種内で形態および遺伝的な変異が報告されているものの、その詳細は明らかにされていません。そこで、分子生物学的手法を用いPleuromamma abdominalisの分子系統地理を調べることを目的とし、太平洋をフィールドとして研究を進めてきました。分子系統地理とは種内の多様性や地域差の解析を目的としており、全球に分布し優占するPleuromamma abdominalisの分子系統地理を調べることは、海域間のつながりやカイアシ類の進化や分布を考える上で重要となります。しかし、解析を進める上で、太平洋における分子系統地理の理解のためにはインド洋・大西洋を含めた解析が必要となると感じました。そこで、大西洋やインド洋の試料を保有するGoetze博士に協力を依頼し、全球におけるPleuromamma abdominalisの分子系統地理を調べる機会を得ることが出来ました。


ミトコンドリアDNA COI領域系統樹。
少なくとも2つの生殖隔離のある種に分かれ(PLAB 1および2)、
各種内でも地域や環境に応じた遺伝子グループに分かれています。

ハワイ大ではこれまでの太平洋25測点の試料に加え、大西洋14測点、インド洋7測点のPleuromamma abdominalisを試料内から選別し、遺伝子解析を行いました。解析は、種内の集団構造も解析が可能なミトコンドリアDNAのCOI領域により計944個体のPleuromamma abdominalisの分子系統地理を調べました。COIの系統解析の結果、Pleuromamma abdominalisは大きく2つのグループ(PLAB1およびPLAB2)に分かれ、他の遺伝子領域との比較からPLAB1とPLABの間では生殖隔離のある異なる種であることが確認されました。また、PLAB1およびPLAB2の中でも多くの遺伝子グループに分かれることが分かりました。今回検出された遺伝子グループの数は従来報告されている外洋性カイアシ類の多様性に比べても非常に高く、Pleuromamma abdominalisが広範囲の熱帯・亜熱帯域で優占する一因となっていると考えられました。

現在は詳細な結果は解析中ですが、各遺伝子グループ間で海域や環境に応じた異なる分布パターンが見られることが分かってきています。さらに、太平洋特の西部赤道域や黒潮域はインド洋と共通する遺伝子グループの分布が見られるなどと、海域間のつながりも見出されてきています。現在得られた結果はさらなる解析を加え、論文化の作業を進めています。また、プロジェクト内の主な研究課題であるメタゲノム解析によるカイアシ類の群集構造解析の結果とも合わせ、太平洋の生物地理の理解につなげたいと考えています。最後になりますが、このような機会を与えてくださった本プロジェクトの若手派遣のプログラム、快く受け入れ試料を提供してくれたGoetze博士には深くお礼を申し上げます。今回の渡航では良いデータが得られただけでなく、他国の研究者とも議論や情報交換も出来、非常に貴重な経験となりました。よりよい研究成果を出すことが最大の恩返しだと思い、今後も研究に励みたいと思います。

ページトップへ