科学研究費補助金 新学術領域研究「新海洋像:その機能と持続的利用」

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白鳳丸 KH-13-7次航海 報告(東京大学大学院農学生命科学研究科 佐藤光秀)

2013年12月11日(水)から2014年2月12日(火)にかけての63日間、学術研究船白鳳丸によるKH-13-7次航海が実施されました。本航海は本研究領域の主軸となる航海であり、西経170度線上の南北縦断観測のうち南半分を担うものです。途中、12月29日から1月1日の4日間、米領サモアパゴパゴに、1月23日から27日の5日間ニュージーランドオークランドにそれぞれ寄港し、各寄港間をそれぞれレグ1、レグ2、レグ3としました。内外の13研究機関からのべ43名の研究者が乗船し、うち9名が全レグ乗船となりました。特に本研究領域からは、下記に示す、NEOPSの項目A01と02および公募班を担当する研究者、ポスドク研究員や大学院学生も多数参加し、物理・化学・生物の様々な分野からの研究者たちが一堂に会する航海となりました。

<NEOPSの計画研究班から本航海への乗船者>

〇項目A01 ・「海洋物理構造からの新海洋区系と流動」
代表者:伊藤幸彦、分担者:纐纈慎也
・「海洋生元素地理の高精度観測からの新海洋区系」
代表者:齊藤宏明、分担者:山下洋平・橋濱史典
・「分子生物地理からの新海洋区系」
代表者:津田 敦
〇項目A02 ・「炭素・窒素循環におけるキープロセスの解明」
代表者:小川浩史、分担者:高橋一生
・「生物生産調節メカニズムの解明」
代表者:武田重信、分担者:佐藤光秀
〇公募班 ・「外洋域の乱流観測に基づく物質鉛直輸送に関する研究」
代表者:安田一郎
・「新海洋区系における大気海洋間の物質循環の影響解明」
代表者:植松光夫

本航海では、大きく下記に示す3つの研究テーマに沿った調査・研究が実施されました(項目2と3は単年度公募の採択課題)。

  1. 生態学・生物地球化学の全太平洋3次元マッピング
    • 海洋の物理構造と乱流に関する研究
    • 海洋表層の光環境に関する研究
    • ナノモルレベルの栄養塩の動態に関する研究
    • 溶存有機物の動態に関する研究
    • 溶存気体の動態に関する研究
    • 懸濁粒子の動態に関する研究
    • 動植物プランクトンの生態に関する研究
    • 一次生産、新生産、移出生産および再生生産に関する研究
    • 窒素固定生物の生態に関する研究
    • 微量金属の動態及びその生物作用に関する研究
    • バクテリアおよびウィルスの群集動態に関する研究
    • 海洋大気間の物質の移動に関する研究
  2. 南太平洋子午線トランセクトにおける表層プランクトン群集による無機リン酸取込みについての研究
  3. 太平洋における海水中硫化ジメチルおよび関連有機化合物の高時間分解能観測

レグ1では、東京港を出港し、途中北半球亜熱帯海域での試験測点における観測をはさみ、赤道西経170度線上まで南下したのち、南緯10度までの観測を行いました。航走中は物理班による新兵器、巡航中も上げ下げしながら物理パラメータを鉛直的・連続的に測定できるUnderway-CTD(U-CTD)が投入されました。途中何度かトラブルに見舞われたものの、高頻度で測線上の物理データを取得することに成功しました。予定されていた南緯5度の測点はキリバス共和国の排他的経済水域にあたるとのことで観測をスキップし、2点の観測を行ってパゴパゴに入港しました。

寄港地のパゴパゴはサマセット・モームの短編「雨」の舞台としても知られ、一年を通じて多雨なことで有名な島です。幸い我々の寄港中はそれほど激しい雨はなく、レグ2に向けそれぞれに休息を取れました。しかし、1月1日はそれまでと打って変わって篠突くような雨のなかでの出航となりました。レグ2では、西経170度線上をさらに南下し、物理・化学・生物の他分野にわたる観測を継続しました。本来は南緯50度まで南下するスケジュールでしたが、もとより荒天がちな海域であることに加え、我々が訪れたときには観測海域に連続して低気圧が進入し、なかなか南下のタイミングが測れない状態が続きました。そこで、計画を変更し、次の寄港地であるオークランドに少しずつ近づきながら、レグ2で十分にできなかった大気-海洋ガスフラックス観測やグライダーを使った物理観測を重点的に行いました。結局時間切れにより、南緯40度までしか南下することができず、南大洋の影響を受けた水をとらえることはできませんでしたが、異分野の研究者がこれほど集結して集中的な観測をおこなう機会は得難いものであり、有意義な濃密なデータが取得できたことを確信しておりますし、研究環境を共有できたということはこれからの議論においてもポジティブな影響が大きいことを確信しています。

レグ3は研究者がガラリと入れ替わり、日本への航走とそれにともなう物理や大気系の連続観測が中心となりました。少ないメンバーで機器の不調とも闘いながら、なんとか予定された期日に東京に入港することができました。東京入港時には雪がちらつき、あらためて長い航海を終えて日本に帰ってきたのだと実感しました。本航海は各分野の第一線の研究者が乗船したことに加え、まだ乗船経験の少ない若い学生が多数乗船したことも特徴的でした。NEOPSというプロジェクトのもとで彼ら彼女らがフィールド研究者として成長することを願ってやみません。

本航海は日本の海洋学の最新の技術と人材を投入した集中的な観測航海でした。そのため、前述のU-CTDやグライダーに加え、ビデオプランクトンレコーダー、高性能水中光度計などといったいわゆる新兵器が多数投入されたため、船長はじめ船員の方々には技術面での多大なご支援をいただきました。また、東京大学大気海洋研究所の観測研究推進室の杢さん、石垣さん、長澤さん、竹内さん、石垣さん、マリン・ワーク・ジャパンの押谷さん、野口さん、片山さん、並びに、陸上から支援して頂いた、海洋研究開発機構及び東京大学大気海洋研究所の担当者の方々には大変お世話になりました。


1 U-CTDによる観測。
2 物理観測グライダーの回収。
3 小型魚類や甲殻類の採集のための大型ネット。
4 現場のプランクトンをそのまま撮影するビデオプランクトンレコーダー。
5 パゴパゴ港。
6 オークランド港。
7 集合写真(レグ1)
8 集合写真(レグ2)


図1 本航海の測点図

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