科学研究費補助金 新学術領域研究「新海洋像:その機能と持続的利用」

A02 物質循環

炭素・ 窒素循環におけるキープロセスの解明

研究者数: 3名

研究代表者 小川 浩史 東京大学大気海洋研究所・ 准教授
研究分担者 古谷 研 東京大学大学院農学生命科学研究科・ 教授
研究分担者 高橋 一生 東京大学大学院農学生命科学研究科・ 准教授

本研究課題は、新生産と再生生産の従来の概念の再構築を促す近年の研究動向を背景にして、新生産および再生生産の太平洋におけるマッピングを完成させることを最終的な目的とするものである。太平洋を主対象として広汎な海域をカバーする研究航海において、炭素・窒素循環の素過程の同時観測を行うことにより、新生産と再生生産を総合的に再評価する。さらに、室内実験やメソコスム実験を通して、現場観測から得られた仮説を検証する。特に着目するのは(1)溶存有機物を介した生産・分解過程、(2)窒素固定・ 硝化、(3)動物プランクトンを介した物質の動き、という3つの過程である。これにより、有機物・微生物から栄養塩・植物プランクトンを通じて動物プランクトンに至る海洋の炭素・窒素循環の全体像が明らかになることが期待される。得られた成果は、観測から記述モデル、統合モデル、そして予測モデルに繋げる視点で整理し、本課題に係わる生態系モデル研究への貢献を目指す。さらに、本研究課題は化学・生物パラメータの地理分布に対してプロセスの情報をインプットし、物理場の情報とともに各パラメータの地理分布のメカニズム解明につながることが期待される。また、海洋の生物群集による炭素や窒素の固定から、海洋区系ごとの水産学的、経済的評価を生みだすことも期待される。

生物生産調節メカニズムの解明

研究代表者 武田 重信 長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科・ 教授
研究分担者 佐藤 光秀 東京大学大学院農学生命科学研究科・ 助教
直江 瑠美 長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科・ 環境海洋資源学専攻・博士後期課程

本研究課題は、新たに構築される海洋区系において、物質循環を駆動する海洋表層の生物生産の活動の調節機構を解明することを目的とする。調節要素としては栄養塩、微量金属、光に重点を置く。従来の研究ではこれらの要素の総存在量の過不足をもとに制限要因を論じることが多かったが、本研究では栄養塩や微量金属の物理形態 (粒子態、コロイド態、溶存態)や化学形態 (化合物の種類、配位子)、化学量論的バランス (元素比)、およびそれらの複合作用 (共制限)や、光の波長組成などに着目する。培養実験や現場観測を通じて、これらの調節要素が生物生産に及ぼす影響を、光合成能や増殖速度といった細胞レベルから種の多様性・優占性といった群集レベルまで解析し、昼夜変動から季節変化までの時間スケールを対象とする。さらに、光合成や栄養獲得戦略が異なると予想される表層と亜表層の群集を対比しながら解析する。得られた成果を下に、これらのプロセスについて従来の定式化された経験則を検討し、改良した後、モデル解析に提供する。これらの成果から、各海洋区系の物質循環機能および物質循環を担う生態系の機能の理解が深まり、その社会的・経済的価値を評価することが可能になると同時に、地球環境に対する人類活動の影響予測研究が飛躍的に前進すると期待される。

生元素循環および生態系の長期変動解明

研究代表者 千葉 早苗 独立行政法人海洋研究開発機構地球環境変動領域・ チームリーダー
研究分担者 虎谷 充浩 東海大学工学部・ 教授
研究分担者 小埜 恒夫 国立研究開発法人水産研究・教育機構中央水産研究所・ 室長
研究分担者 橋岡 豪人 独立行政法人海洋研究開発機構地球環境変動領域・ 特任研究員
研究分担者 安中 さやか 独立行政法人海洋研究開発機構地球環境変動領域・ 特任研究員
連携研究者 本多 牧生 独立行政法人海洋研究開発機構地球環境変動領域・ チームリーダー
連携研究者 野尻 幸宏 国立環境研究所地球環境研究センター・ 上席主席研究員

本課題では、生元素や海洋生物の過去数十年にわたる観測データ、および衛星観測データを海盆~地球規模で海域間比較することにより、以下の2点を達成することを目的とする。(1)特定の気候フォーシングや温暖化等の地球規模の環境変化に対し、海域ごとに異なる長期変動パターンおよび変動プロセスを明らかにし、その差異の要因となる海域の物理・ 化学・ 生態学的特性を特定する。(2)環境変化にともなう低次生態系の質的変化 (種組成・ 多様性・ 食物網構造)が、海域の二酸化炭素の吸収量や炭素の鉛直輸送といった物質循環に与える影響を評価する。そのために、まず生元素およびプランクトン組成の長期データを解析し、海洋環境および低次生態系の変動パターンや長期トレンドを海域比較する。また、衛星海色データから植物プランクトン組成を推定するアルゴリズムを開発し、動物プランクトンデータと合わせて低次生態系構造の時空間変動パターンを明らかにする。そして、これらを表層の二酸化炭素分布や沈降粒子組成の経年変動と比較する。さらに、公募研究と連携して、成層化や亜表層の酸素濃度低下、海洋酸性化といった環境変化による海洋生態系への影響の違いを海域ごとに明らかにする。これらの成果は、温暖化モデルの予測向上や環境政策の策定に寄与していくことが期待される。

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