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新海洋区系における大気海洋間の物質循環の影響解明
海の空気中の物質は、陸上から運ばれたものや海からできるものがあります。海の空気のエアロゾルに含まれている化学成分が雨などで海水に加わります。海の表層に生きる生物は、海水中の栄養塩だけではなく、大気からの化学成分によっても、増えたり、減ったり、種類が変わったりすると考えられています。海域によって、これらの化学成分の組成や濃度が変化します。この研究では、どの海域にどんなエアロゾルが分布しているか、そして人間の活動によって吐き出された物質などが海の環境にどんな影響を与えているかを研究船で空気中のエアロゾルを採取して化学分析して明らかにすることを目指しています。
研究船白鳳丸のKH-13-7次研究航海は2013年12月11日から2014年2月12日までの計64日間に渡って実施されました。本航海では太平洋を緯度方向に幅広くカバーしており、南太平洋の西経170度線に沿った海域での海洋大気の物理的特徴や化学成分の特徴の特徴を明らかにする事を目的としました。
図1 航路上からの5日間前までの後方流跡線。
流跡線は6時間ごとに取得。
航海中にどこから空気が運ばれてきたかを遡って調べると、
(1)アジア大陸起源の空気塊(クロロフィルa濃度低い)
(2)北太平洋起源の空気塊(クロロフィルa濃度低い)
(3)赤道域起源の空気塊(クロロフィルa濃度比較的高い)
(4)南太平洋起源の空気塊(クロロフィルa濃度低い)
(5)南極域起源の空気塊(クロロフィルa濃度高い)
というようにはっきり区分することができました(図1)。
図2 大気エアロゾル中の硝酸塩濃度分布
この航海では、毎日フィルターで空気中のエアロゾルをろ過し、そのフィルターの化学成分を分析しました。大気中エアロゾルに含まれている硝酸塩は海洋生物の栄養塩の一つとして知られています。硝酸塩はNOxという窒素酸化物が、さらに酸化されてエアロゾル粒子になったものです。NOxは陸上の化石燃料の燃焼によって大気中に放出されるもので、近年、その排出量は増加の一途をたどっています。分析の結果(図2)を見ると、人間活動によって西部北太平洋上の濃度が高く、そのほとんどがアジア大陸から運ばれてきたものだということがわかります。南太平洋、特に南大洋からの空気にはほとんど含まれていませんでした。ニュージランド沖や赤道付近でも一部、人間活動の影響を受けていることがわかります。これからも窒素酸化物が大気中で増え続けると、熱帯や亜熱帯海域で多くいた空気中の窒素(N2)を直接取り込むプランクトン(窒素固定者)よりも、海水中から硝酸塩などの窒素成分を栄養として使っていたプランクトンの種が多くなっていく可能性があります。(植松光夫)