科学研究費補助金 新学術領域研究「新海洋像:その機能と持続的利用」

連載

高次捕食者は海洋区系の物質循環とどのように関係しているのだろうか?

サメ類、マグロ類、サケ類、イカ類などの外洋高次捕食者は、食物網を通じたトップダウン効果により生態系の構造に重要な影響を及ぼす鍵種であり、生態系の状態を反映する指標種でもあります。また、漁業活動等を通じて食糧や社会経済価値などの貴重な生態系サービスを我々に提供しています。海洋区系ごとに、どのような生物がどれだけいるかという群集構造と、それら生物がどのような捕食被食関係を持っているかという食物網構造は表裏一体の関係にあり、各区系の生物生産と物質循環の特性や、群集の多様性と動態を特徴づける重要な要素です。


図1.北西太平洋表層生態系の食物網モデルのプロトタイプ。
円の大きさは現存量、線は捕食・被食関係、鉛直方向の位置は
栄養段階を表す。

計画研究班「広域回遊性魚類の資源変動メカニズムと海洋区系」では、北太平洋の外洋表層生態系を対象として、長期調査データと生物試料の分析、数理モデル解析を統合し,食物網の構造(種組成,多様性,サイズ構造など)と機能(栄養ダイナミクス)を明らかにし(図1)、その時空間変動パターンが気候変動や漁業とどのように関係しているか解析します。また、多くの外洋高次捕食者は広域回遊性であり、成長につれて食物網中での捕食被食関係や栄養段階を変化させながら移動回遊を行い、複数の海区系の生産性を利用して物質を能動的に輸送する役割も果しています。そこで私達は2つの鍵種:アカイカとサケ類に注目し、彼らが生活史とともに区系の物質循環とどのような相互作用を持ち、それが各種の資源ダイナミクスとどのように関係しているか解明するための研究を行なっています。


図2.アカイカの秋生まれ群と冬生まれ群の回遊パターンを表す模式図。

アカイカは外套長2mm程度の稚仔から外套長600mmの成体まで約10ヶ月で一気に成長し栄養カスケードを駆け上る単年性の種です。稚イカはあまり移動しないため、成長・生残は産卵場所の生産性と環境に依存します。繁殖時期が異なる2つの系群(秋生まれ群と冬春生まれ群)が識別され、系群と雌雄によって索餌回遊のパターンが異なると言われており(図2)、それぞれ異なる区系の生産力を利用していることが予想されます。私達の研究チームでは、安定同位体分析から摂餌履歴を明らかにし、アカイカの成長・回遊、さらには資源変動と、海区系の物質生産の時空間変動との関係を解き明かそうとしています。一方,サケ類は広域回遊性の遡河性魚類であり,成長につれて北太平洋、オホーツク海、ベーリング海、アラスカ湾といった広い範囲を移動し、異なる海区系の生産力を利用して区系間および海洋・陸水間に物質を輸送するポンプとしての機能を果しています(図3)。また、サケ類は冷水性魚類であり、地球温暖化の影響を受けて回遊経路や餌環境が変化することが予想されます。私達は日本系サケの回遊環境モデルを開発し、摂餌動態解析と組み合わせることにより、海区系の物質循環におけるサケの機能解明と、気候変動にともなう回遊パターンと物質循環の将来予測に取り組んでいます。(清田雅史・米崎史郎・奥田武弘・酒井光夫・加藤慶樹・上野洋路)


図3.日本系サケの主要な回遊経路の推定図(浦和2000より)。

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