科学研究費補助金 新学術領域研究「新海洋像:その機能と持続的利用」

連載

海洋の物理構造と生態系


図1.海面クロロフィルa濃度(カラー;
植物プランクトン量を指標)と海面力学高度
(実線;表層の海流路を指標)の長期平均値。

陸上の気温や降水量が植生分布を特徴づけるように、海洋の循環や混合は生物の分布や密度に大きく影響しています。海洋では光の強さや窒素・リン等の栄養塩濃度が植物プランクトン生育の主な制限要因で、表層の混合や水平・鉛直的な栄養塩の輸送等の過程がこれらの要因に密接に関係しています。例えば、太平洋の平均的な植物プランクトン量は栄養塩豊富な下層の海水が湧昇する亜寒帯域や東部赤道域で高く、表層で流れが収束して下降流を生じる亜熱帯域で少なくなっています(図1)。

近年、観測やシミュレーション技術の発展によって、海洋には図1に見られるような大規模循環より小さく変動の大きい中規模渦(大気の低気圧・高気圧やに相当)が数多く存在し、これらが物質や生物の輸送に重要な役割を果たしていることがわかってきました。


図2.2010年4月4日の海面高度。
4つの人工衛星に搭載された海面
高度計データから合成。
帯状に分布する細かい凹凸が中規
模渦を表す。

研究計画班「海洋物理構造からの新海洋区系と流動」では、中規模渦など中小規模の物理現象に伴う物理・化学・生物過程の連環を明らかにし、現象の分布特性(例えば、中規模の出現頻度は海域によって大きく異なる;図2)に基づく生態学的区系の提案を目指しています。


写真1.投入前のフロートを持つ
金子特任研究員。

短い時間で変動する複合現象を捉えるために採用した1つの方法が多項目のセンサーを備えたプロファイリングフロート(海水の特性を自動的に観測する装置;写真1)による観測です。本フロートは圧力・水温・塩分・溶存酸素・クロロフィルa濃度を備えており、上層の物理構造の変動が植物プランクトンの生育に及ぼす影響を連続的に捉えることができます。2013年4月に釧路沖の高気圧(時計回り)渦内に2台のフロートを投入し、毎日500 mまでのデータが取得されています。

このプロファイリングフロート観測に加え、各海域で観測や生態系モデリング、人工衛星データの解析を進めています。これらの取り組みから得られる知見を統合し、中小規模の物理現象が形作る海洋区系の実像に迫っていきます。(伊藤幸彦・纐纈慎也・奥西武・金子仁・平池友梨)

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